人の一生には、生を受けたときから、節目ごとに数多くの大切な行事があります。和菓子は、それらの行事との強い結びつきを大切にしてきました。喜びのときにも悲しみのときにも欠かすことのできない名脇役として、人々の暮らしの中で育まれてきたのです。歴史の中でともに生きてきた和菓子だから、真心を込めた手づくりの和菓子だから、多くの人にあたたかいふれあいを生み、優しい安らぎのひとときとぬくもりをお贈りすることができるのです。
生後三日目の祝い
生後三日目は古来より大切な節目の日でした。その昔は、生後間もなく亡くなってしまう不幸などが多くあり、そのため生まれて三日を無事に過ごすことによって、その児が丈夫に育っていくことを確信する喜びの日でありました。三日目には初めて袖のある産着を着せ、これを「三日衣装(みっかいしょう・みつめぎもの)」と呼び祝いました。その時に、おはぎをつくり、親しい方々に配ったものが「三つ目のおはぎ」と呼ばれました。またこの日に産婦に餅やおはぎを食べさせたのは、お乳の出が良くなるように祈念したという意味もあったようです。生後三日目には「三つ目のおはぎ」で祝います。
生後七日目の祝い
生後七日目を「お七夜」といいます。生まれた児の名前を半紙などに書いて(命名書)、神前、仏前に供え、仲人をはじめ親族友人を招いて命名の披露をし、無事な成長を願います。
「お七夜」には、鶴の子餅や赤飯を配ります。
初宮参り
氏神様へ初のお宮参りをして氏子になることを「初宮参り」といいます。一般的に男児は生後三十一日目、女児は生後三十三日目が多いようです。この日、氏神様に新生児の生育と加護を祈るとともに、無病息災を祈願します。初宮参りの日には、親族友人を招いて内祝を行うとともに、いただいた出産祝いのお返しをします。お祝いの返礼には、紅白まんじゅう、鶴の子餅、おめで糖などがよくつかわれます。
初節供(句)
生後初めて迎える節供(句)。三月三日は女児の雛の節供(句)、五月五日は男児の端午の節供(句)。初節供(句)には里方や親戚、知人などから贈られた人形やのぼりなどを飾り、返礼として菱餅やちまきを贈る習わしが広く行われています。雛の節供(句)には、菱餅、桜餅、ひなあられ、端午の節供(句)には、ちまきや柏餅がつかわれます。
菱餅は、菱の実を食べて長生きした仙人がいたことに由来したといわれ、長寿を祈る餅ともいわれています。また柏餅は、新芽が育つまで古い葉が落ちない縁起から、子孫繁栄を願ったものといわれます。
祝膳のお土産には、煉切りや引菓子も良いものですね。ぜひ和菓子店にご相談ください。
お食い初め
誕生後初めて本膳(一汁三菜)に着かせて、子どもが一生食べることに困らないように祈ります。各地で「膳揃え」「箸揃え」「箸初め」など様々に呼ばれ、生後百日、百十日、百二十日に行われることが多いようです。このお祝いは家族で行い、皆で食卓を囲むことにより、まだ弱い乳児に力を分け与えるという意味もあります。食べ物を乳児の口元に運び、食べさせる真似をさせますが、その役は年長者にお願いすることが多いようです。
お食い初めの祝いには、赤飯、紅白まんじゅうが用いられます。
初誕生日
満一歳の誕生日を迎え、ここまで無事に育ったことを祝います。この日には、一升の餅をつき、それに“寿”または“祝”と朱書きした「誕生餅(一生餅)」を用意し、一生元気で食べ物に困ることがないように願って、誕生日を迎えた子に背負わせます。また、ところによっては、誕生日以前に早く歩き始める子は成長してから早く家を離れて暮らすようになるといい、それをいやがって、その子に餅を背負わせてわざところばせたりします。各地にこれらの風習があり、「しょわせ餅」「ころばせ餅」「力餅」などとの呼び方もあります。誕生餅はお近くの和菓子店にご用命ください。
七五三
子どもの成長を祝って、男児は三歳と五歳、女児は三歳と七歳の11月15日に氏神様にお参りをする行事です。男女ともに三歳で髪を伸ばし始めるので「髪置きの祝い」、男児は五歳で初めて袴を身に付けるため「袴着の祝い」、そして女児は七歳で着物の付け紐を取り除いて帯を結ぶようになる「帯解きの祝い」を行いました。これが現在の七五三となり、子どもの健やかな成長を願い、晴れ着を着せてお宮参りをする風習に変わりました。
七五三の祝いには、千歳飴、鳥の子餅、引菓子、赤飯などでお祝いをします。
十三参り
関西地方(特に京都・大坂)では、数え年で十三歳になる旧暦の3月13日に、知恵の神様である虚空蔵菩薩にお参りして福徳と知恵を授かる「十三参り(または知恵貰、知恵詣)」が行われ、関東の七五三に匹敵する行事といわれています。
十三歳という年齢は、古来男女の成年式が行われた時期で、人生の転機のひとつとして大切な日とされていましたが、女子が初めて本裁の着物を仕立ててもらいお参りすることから子女の開運、出世を祈る催しともいわれます。
この日食べるお菓子を「十三智菓」といい、十三種類のお菓子を買い求めお供えし、持ち帰って家中でともに食べてお祝いをします。
入園入学・卒業祝い
幼稚園から大学まで、入園・入学、卒業は、人の成長していく上での大切な節目の日です。無事に過ごしてきたことに感謝し、今後のさらなる成長と幸せを祈る日でもあります。親族や友人・知人と祝膳を囲みます。
内祝には、紅白まんじゅう、赤飯、鶴の子餅などが最適です。
成人の祝い
法律的に晴れて大人の仲間入りをする日です。昭和23年に1月15日が「成人の日」と定められ、国民の祝日となりましたが、平成12年に1月の第2月曜日に変更されました。日本全国の自治体などで新成人を祝う式典が行われます。
お世話になった方々に感謝の気持ちを添えて、紅白まんじゅうや引菓子をお配りします。
結納・結婚祝い
一生のうちで最も晴れやかな慶儀です。
結納は結婚を申し込む儀式で、取りそろえる結納品には関東式(正式九品目。略式七品目)と関西式(五品目)があります。婚約した相手の家を訪ね結納を交わすときには、結納品と共に慶事にふさわしい和菓子を持参することがよいとされています。
結婚式は、相思相愛の男女が一生の伴侶として結ばれ、人生への新しい旅立ちをするための大切な儀式です。当日招いた方々には、松竹梅の干菓子などで供応し、引出物には引菓子を用意します。引き菓子には、お二人のなれそめや記念の出来事などを表現した創作和菓子なども大変喜ばれます。ぜひ和菓子店にご相談ください。
結婚記念日
仲むつまじいご夫婦の記念日です。25年目の銀婚式、50年目の金婚式が有名ですが、1年目の紙婚式、7年目の銅婚式など、周年ごとに記念の祝いがあり、60年目にはダイヤモンド婚式が行われます。
結婚記念日のお祝いには、仲人を始め親族、友人の方々へのご挨拶として、ご夫婦が過ごされた年月にふさわしい内祝の和菓子を配ります。
年祝い
六十の干支(十干と十二支の組み合わせ)がひと回りして元に戻るという意味の、60歳の還暦(生まれた年の干支に戻る)。「人生七十古来稀なり」の諺から、満70歳を迎えて祝う古希。77歳の喜寿。80歳の傘寿、88歳の米寿。100歳ひとつ手前の99歳を祝う白寿など、それぞれ無事に年を重ねてきた喜びを祝います。家族や親しい方々をお招きし、祝膳を用意して祝います。
引出物には、赤飯、鶴の子餅、引菓子などが喜ばれますが、それぞれの年祝いに合わせて特別の意匠をほどこした和菓子なども大変喜ばれます。
病気見舞いと快気祝い
病気のお見舞いに伺う際は、先方のご病状にもよりますが、カステラ、軟らかい小麦煎餅類、飴類などが一般的です。また産婦の方へのお見舞いには、カステラや水飴、おきな飴が喜ばれます。
病気が全快したら、快気祝い(床上げ祝い)として、お見舞いをいただいた方々に鶴の子餅、赤飯、おめで糖、紅白饅頭などで返礼します。
創業などの、記念の日の祝い
開店、創業などやその周年記念には、その日を無事に迎えられたことを祝い、お世話になった方々に感謝する日です。
内祝の引出物には、紅白饅頭をはじめ、和菓子が多く用いられますが、会社のマークなどを象ったり刻印するなどした和菓子をお配りすることも大変喜ばれます。ぜひお近くの和菓子店にご相談ください。
新 築
新しく家を建てることは、一生のうちに何度もあることではなく、まさに一大事業といえるものです。滞りなく新しい家が建つように、節目節目に工事の無事を祈ります。
地鎮祭は、土地を清め、工事の安全と家の繁栄を土地神に祈る儀式です。親族、知人や工事関係者などの方々に祝膳を用意し、引出物には赤飯、紅白饅頭などを配ります。
上棟式(棟上げ、建て前)は、家の柱建てが終わり、棟木を上げるにあたり、工事の安全と建物の堅固長久を祈念する儀式です。儀式の後には、祝膳を用意し、工事関係者にご祝儀を配ったり、出席者には紅白の餅を配り、近隣の方々に菓子折を携えてご挨拶に回ります。また、菓子や餅を撒く地方もあります。
通夜見舞い・葬礼
親族・友人・知己が集まり通夜が営まれるときには、盛り菓子、茶菓子を用意します。
葬礼は、各家の宗派の儀式によって手厚く行われますが、この日には「盛り出し」といって、会葬者に春日饅頭、しのぶ饅頭、上用饅頭などを配ります。
法 要
お亡くなりになった方の追善供養のために行う仏事で、一般的に没後四十九日までのあいだに7回の供養を行います。初七日、二七日、三七日、と7日ごとに続きますが、初七日と七七日の四十九日では、親族や親しい方々が集まり、故人を偲びます。集まった方々へのお土産には、しのぶ饅頭、上用饅頭、式菓子などが用いられます。
またその後は、百か日、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌、十七回忌、二十三回忌、三十三回忌と続き、用いる菓子は同様ですが、五十回忌からは菓子に赤いものを用いても差し支えありません。